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東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)144号 判決

原告

塩沢一男

被告

東京ナショナル機器販売株式会社

右代表者

梅田博之

右訴訟代理人弁護士

高橋武

弁理士

粟野重孝

主文

特許庁が昭和四六年九月二九日同庁昭和三四年審判第二九号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

〈前略〉

(審決の成立―特許庁における手続の経緯)

一、原告は、名称を「紫外線殺菌器」とし、昭和二九年八月五日出願、昭和三一年九月二六日登録にかかる登録第四五〇九九二号実用新案(以下、「本件考案」という。)の権利者であるが、昭和三四年一月二四日、特許庁に対し、被告を被請求人として、後記二、(2)の紫外線殺菌器(以下、「イ号物件」という。)の構造が本件考案の権利範囲に属する旨の権利範囲確認の審判を請求したところ、特許庁は、これを同年審判第二九号事件として審理し、昭和四六年九月二九日「審判請求は成り立たない」旨の主文第一項掲記の審決をし、その謄本は、同年一一月二七日原告に送達された。

(本件考案の要旨及びイ号物件の構造)

二(1)  本件考案の要旨は、前面に扉1を具えた箱体2内に棚3を数段架設するとともに、その棚の各前端と箱体内の奥面4との間に適当の間隔を設けて、その部分の中央に殺菌ランプ5を縦設し、そのランプの背後に反射鏡6を設置し、棚とランプ装置室との間に保護金網7を設けてなる紫外線殺菌器の構造というにある(別紙第一図面参照)。

(2)  イ号物件は、別紙第二図面に示すように、前面に扉5を有し、内方に棚6を三段設け、前面中央に縦設した支枠7の内側に紫外線ランプ8を縦設し、この紫外線ランプの前側にこれを囲むように細長いランプ保護枠9を数本縦設し、紫外線ランプの背後には凹形光線反射枠10をランプに沿つて支枠7に取り付け、殺菌室4の奥面は白色塗装により光線が反射しやすいようにした紫外線殺菌器である。

(審決の理由)

三、そして、右審決は、本件考案の要旨及びイ号物件の構造を前項のとおり認定したうえ、次のような理由を示している。

両者は、前面に扉を具えた箱体内に棚を数段架設するとともに、棚と側面との間隔内に紫外線殺菌ランプを縦設し、ランプの背後に反射体を装置し、棚とランプとの間に保護体を設けた紫外線殺菌器である点で一致するが、(1) ランプが、本件考案では奥面に設置されているのに対し、イ号物件では前面に設置されていること、(2) 保護体が、本件考案では棚とランプとの間に一面に設けられた金網であるのに対し、イ号物件ではランプを取り囲むように設けられた保護枠であること、(3) 反射体が、本件考察では奥面一面に設けられた反射鏡であるのに対し、イ号物件ではランプの後方にそれに沿つて設けられた縦長の反射枠であることで相違している。そして、イ号物件におけるランプの設置場所、保護枠及び反射枠の各形状は、それぞれ本件考察とは別異の作用効果を有し、一方本件考案の右相違点における各構成は、考案における重要な要件となつている。したがつて、両者は、全体として構成及び作明効果を異にするから、イ号物件は、本件考案の権利範囲に属しない。〈後略〉

理由

一前掲請求の原因のうち、原告の権利に属する本件考案に基づき、イ号物件についてなされた権利範囲確認審判の請求から審決の成立、その謄本の送達にいたる手続の経緯、本件考案の要旨、イ号物件の構造及び審決の理由に関する事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、右審決に取消事由があるかどうかについて考える。

(一)  本件考案とイ号物件の構造とは、紫外線殺菌器において、前面に扉を具えた箱体内に棚を数段架設するとともに、棚と側面との間隔内に紫外線殺菌ランプを縦設し、ランプの背後に反射体を装置し、棚とランプとの間に保護体を設けた点で一致し、ただ、ランプの(1) 設置個所、(2) 保護体、(3) 反射体に関して、右審決の理由中における認定のような相違点があることは、当事者間に争いがない。

(二)  そして、その相違点については、以下のように考えられる。

1  右事実によると、殺菌ランプが箱体の奥面であるか前面であるかの違いは別として、側面と棚との間隔内に縦設されていることは、本件考案とイ号物件の構造との両者に共通している。そして、実用新案公報によると、本件考案は、殺菌ランプを箱体内の奥面に縦設して、各棚上に紫外線が当るようにすることにより、殺菌の目的を十分に達する効果があることが認められるが、その明細書には、ランプを特に箱体の奥面に設置したことの意義について触れるところがないから、ランプによる殺菌効果を期するには、ランプを各棚上に均等に紫外線が当りうるような場所に縦設すれば足りるものと解されるとともに、その個所が本件考案のように奥面であつても、イ号物件のように前面であつても、差異があるとは考えられない。したがつて、イ号物件の構造においても、ランプが箱体内に縦設されている以上、これにより本件考案と同様の作用効果があるということはできるが、その設置個所が前面であることによつて格別の作用効果が生じるものとはいうことができない。

被告は、イ号物件の構造においては、前面に設置されたランプの光線が白色塗装された奥面と前面との間を往復反射し、棚上の器物の両側を照射する旨を主張するが、仮にそのような作用効果があるとしても、それは、単に、奥面の白色塗装という、本件考案にない附加的構成に基づく効果にほかならず、ランプ縦設による効果とも相容れなくはないから、これをもつて、イ号物件の本件考案との類似を否定することはできない。

2  次に、(一)の事実によると、棚とランプとの間に保護体を設けていることは、本件考案とイ号物件の構造とに共通している。そして、前出甲第二号証によると、本件考案においては、保護体として金網が設けられているが、それは、棚上に器具を載置する際、誤つて殺菌ランプが破壊される危険を防止するためであることが認められ、他方、イ号物件の構造において、保護体として設けられている保護枠がランプを保護するものであることは、被告の自認するところであるから、両者の保護体の作用効果も同一であるということができる。

被告は、本件考案においては、保護金網の広さ、強さ及び網目の太さに製作、使用上及び殺菌効果上の不都合の生じる点がある旨を主張するが、前出甲第二号証中、本件考案の実施例における保護金網の広さ等が本件考案の構成上限定された事項であること、その他に保護金網の規格を本件考案の要旨が限定していることを認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は失当であるといわなければならない。

3  最後に、(一)の事実によると、ランプの後方に反射体を装置していることは、本件考案とイ号物件の構造とに共通している。そして、前出甲第二号証によると、本件考案において、反射鏡は、ランプが発する紫外線を棚上に効果的に集中放射させるため設置され、これにより棚上の被殺菌物に直接放射されない紫外線をも集中させることが認められるが、前記のように、イ号物件の構造においても、反射枠は、紫外線の反射体としてランプの背後に装置されていて、その凹型の平板部と左右の直角折曲線部とをみると、これによつて、ランプの発する紫外線を棚上に集中放射させることを、たやすく推認することができるから、両者の反射体の作用効果も同一であるといわざるをえない。

被告は、本件考案においては、反射鏡が箱体の奥面一杯に彎曲面をなして設けられているため、肉眼を紫外線の放射から避けることができないとし、この点にイ号物件の構造と差異がある旨を主張するが、反射鏡の形状が本件考案の要旨によつて限定されたものであることを認めることはできないから、被告の右主張は採用することができない。

(三)  してみると、イ号物件の構造において、構成上本件考案と相違する点は、いずれも本件考案と同一の作用効果を奏するものであるところ、その相違の程度も、単なる設計の変更または構造もしくは形状上の微差にとどまるものといえるから、イ号物件の構造は、全体として本件考案の技術的範囲、すなわち権利範囲に包含されるものというべきである。

したがつて、本件審決には、以上の点において、認定ないし判断を誤り、これに基づき誤つた結論をした違法があるというべきであるから、右審決は取消を免れない。

三よつて、その取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(駒田駿太郎 中川哲男 橋本攻)

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